TOP  >  対談・トップインタビュー  >  「自分で考え行動できる」が防災教育の基本

対談・トップインタビュー

「自分で考え行動できる」が防災教育の基本
女子聖学院 田部井校長、防災検定協会 平野理事長と会談
生徒会活動の一環として校内に防災委員会を設置する一方、ハード面の準備も積極的に取り組んでいるのが、東京都北区にある女子聖学院中学・高等学校。今年度は中学の防災委員会メンバーと希望者全員が、ジュニア防災検定を受検することに決定しました。 同校を訪ねた平野啓子理事長が、田部井道子校長からハード・ソフト両面にわたる防災対策の説明を聞きながら校内見学を行いました。
田部井道子 氏 田部井道子 氏
女子聖学院中学校高等学校卒業
獨協大学外国語学部英語学科卒業 同大学専攻科卒業
女子聖学院英語科専任教師として41年間、
2011年より校長補佐、国際教育委員会、広報室の責任を負う
2014年4月より女子聖学院中学校高等学校校長
平野啓子 氏 平野啓子 氏
一般財団法人防災検定協会理事長。静岡県出身。「NHKニュースおはよう日本」のキャスターや大河ドラマの語りを務めた。早稲田大学在学中から声の表現に取り組み、名作を暗唱するプロとして今年で25周年を迎える。現在、大阪芸術大学放送学科教授、武蔵野大学非常勤講師(伝承文化研究)。さらに文学や各地の伝承などを題材に、語りを通じた防災教育やその普及・啓発にも力を入れている。
伝統の運動会が思考を養う場
平野 本日の説明をうかがって、生徒の発案をいかした活動の防災委員会など、貴校では生徒の自主性を大切にしていると感じました。
田部井 「一人ひとりが神さまからかけがえのない賜物を与えられている」という理解のもと、他の人と比較するのではなく、あなたの存在そのものが尊いのであると伝えています。言いかえれば「お互いに個々を大切にする」ということです。
平野 災害への備えとして「自助、共助、公助」の考えがありますが、災害が発生した際所はまず「自助、共助」の段階です。自分達で何をするべきかを考え行動することが大切です。貴校が教育理念に掲げられる「自分から学び思索する」は、そのまま防災教育にもつながるものです。
田部井 女子聖学院 田部井校長、防災検定協会 平野理事長と会談 自主性を尊重する一例として、本校の運動会があります。これは90年近い伝統で毎年6月に代々木体育館をお借りし盛大に行われています。高校の各学年が学年の「色」を持ち、3色に分かれての対抗戦です。中学生はクラスを3色に分け、高校の学年チームと一緒に戦います。運営から実行まで全てが生徒達の自主的な話し合いで進められています。ですから教師はほとんど指導はいたしません。各チームとも選ばれたリーダーのもと、「いかにして勝つか」を考えます。勝利するためにどのようにして集団をコーディネートし、団結させていくかを組織のあり方を通して学んでいきます。このように「思索する」事を日常生活の中で体験します。授業や他の活動でも教師は「あなたはどう思いますか?」と問いかけ、生徒に自分の考えを語り発信することを求めています。
頼もしい女性の視点
平野 本日の校内見学で、防災の設備が整っていてしかも新しい備品が多いことに感心しました。特にハード面だけでなくソフト面の充実が素晴らしいです。
田部井 ハード面の備えはできても、大きな災害が起こったらどうなるだろうかと考えると、限られた人しか使えないのでは困ります。運用を想定して、実際に使ってみることが大切だと思います。
平野 この学校の建てられた地域は、岩盤がしっかりしているそうですね。
田部井 校舎の下は洪積層です。地盤が安定しているため関東大震災でも校舎の被害が少なく、近隣の方々を700人ほど受け入れたという記録が残っています。現在の本校は、新耐震基準に適合した強固な構造となっています。
平野 災害発生時とその後の避難生活でも、身近なところで正しい行動をとれることが大事ですが、あわせて本日の説明をうかがって女性ならではの視点がたくさん取り入れられているので、とても頼もしく感じました。校内にはレモン、ミカン、ローズマリーなどたくさんの果樹が植えられているのも、男性だけの視点では気付きにくい発想ですよね。
田部井 避難生活が長期にわたることを想定すると、生活にわずかでもうるおいが欲しいですよね。実をつけてくれる果樹があれば、ながめるだけでなく香りも楽しめます。実はそのまま食べても新鮮な食材になりますし、ジャムやドライフルーツにすれば保存食にもなります。現在家庭科の先生に利用法を研究していただいています。
平野 殺伐とした避難所の生活で、果樹や樹木はそこにあるだけで、何か、命の美しさのようなものを感じて励みになりますね。
田部井 災害が発生した際は女性がしっかりと生活環境を守らなければなりません。皆が落ち着いて命への希望をつないでいくためにも、そのような心の余裕を持つことが大切だと思います。
情報だけでなく訓練で実感を
田部井 一方で災害直後には、例えばお風呂より優先すべき水の使用があるということを、伺っています。女性でも一週間位、お風呂に入らないこともあるとお聞きし、起きて毎朝シャンプーをして一日が始まる現代の生徒達にもできるようにするためには、実際に体験してみることが大切だと思いました。たとえば避難訓練の一環で、ロッカー備品の水2本で一日過ごすことなどを体験する機会を作るなどです。また、お互いの安全を確認し合うバディーシステムの練習を体育科の先生にお願いしています。ファーストエイドや安全管理に於けるバディーシステムは、お互いを大切にする意味で基本的な事だと考えています。
平野 情報として持っていることも大切ですが、体験がなくては実感が得られませんね。でも保護者からは理解が得られますか?
田部井 もちろん保護者には、事前にきちんと説明して理解と協力を頂かなければなりません。大事なのは、いざという時、生き延びること。そのための訓練を事前にやるかやらないかでは大きく違います。女子生徒を預かっているので、校内はもちろん登下校の道中まで、日頃から色々な面で安全に気を使っています。
平野 海外から仕事や観光で訪れる方、20年東京五輪を迎えますます外国人が増えると、災害発生の際にコミュニケーションが必要になります。貴校は英語や国際教育に注力されていますが、将来は災害時のコミュニケション面で貢献が期待できますね。
田部井 生徒同士のディスカッションやプレゼンテーションなど、元々、ことばの教育やコミュニケーションの授業を大切にしてきました。人は互いに違っていてよいことを認めあって6年間を過ごしていますので、卒業して社会に出ても、異なる文化の国際化社会にあってもやっていけると確信しています。
受検をきっかけに家庭・地域に防災意識を
平野 学校が単独でこれだけ見事な態勢を整えているのですが、これを他校にも伝えられるネットワークがあれば素晴らしいですね。
田部井 生徒・子供達のために、という同じ立場なので、出来るご協力はさせて頂きます。でも災害にあうのは学校にいる間とは限りません。周りに頼る大人がいなく一人きりかもしれません。そのような場合でも対応できるスキルを身につける必要を感じています。
平野 団体受検にあたって、決定までの決め手は何でしたか?
田部井 やはり3.11が大きかったと思います。教師や大人の指示待ちでなく、自分達で行動できるようにしたいと考えています。最終的には各家庭、地域にまで防災意識が浸透することが大切だと思います。生徒達がこの機会を通して防災に対する日頃の意識を高め、万が一そうした状態になった時には、この経験が生かされればと思っています。

一覧へ戻る