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対談・トップインタビュー

将来は生徒全員がマップ作りを
対談~ジュニア防災検定は防災意識のきっかけ
東京の都心近くのビル街の一角にある日本大学豊山中学校・高等学校は、前身の旧制豊山中学校から数えると創立110年。昭和29年日本大学付属となってからは59年という、伝統ある私立中高一貫校です。
先ごろ同校は「ジュニア防災検定」の団体受検を決定しました。平野啓子理事長が同校を訪問し、深田大介校長と同校における防災対策・防災教育などについて対談しました。
深田大介 氏 深田大介 氏
日本大学豊山中学校高等学校校長。昭和26年1月1日生まれ、静岡県出身。昭和48年4月より、日本大学豊山高等学校教諭兼中学校教諭、豊山女子高等学校勤務。専科は数学。平成18年、豊山中学校教頭、20年、豊山高等学校教頭を経て、25年4月より現職。日本統計学会会員、東京環境教育実践研究会会長。「豊山中学高等学校における6か年一貫教育体制の成立過程とその後」(日本大学教育制度研究所「研究紀要第38集」事例報告)等、紀要掲載多数。
平野啓子 氏 平野啓子 氏
一般財団法人防災検定協会理事長。静岡県出身。「NHKニュースおはよう日本」のキャスターや大河ドラマの語りを務めた。早稲田大学在学中から声の表現に取り組み、名作を暗唱するプロとして今年で25周年を迎える。現在、大阪芸術大学放送学科教授、武蔵野大学非常勤講師(伝承文化研究)。さらに文学や各地の伝承などを題材に、語りを通じた防災教育やその普及・啓発にも力を入れている。

平野 さきほど廊下ですれ違った生徒さんから、「こんにちは」とさわやかなあいさつをされました。男子校ということでもっと固いイメージをもっていたので、とてもびっくりしてしまいました。
深田 日大付属の学校は全国で25校ありますが、本校は唯一の男子校です。私から生徒には「卒業後、これからのグローバル社会に活躍できるような人材に育ってほしい」と日頃話しています。あいさつの面では、確かにしっかりできる生徒ばかりです。特に口やかましい指導はしていないのですが。
先生方が毎朝8時前から校門に立って笑顔で「おはよう」と出迎えてくれる。それから中高6年間の部活動の中で培われた、上級生と下級生あるいは先輩、後輩といったあるべき姿など、伝統から受け継がれてきたものがあると思います。そういった環境の中であいさつも自然と身についていくのでしょう。
平野 ネット時代に生きている今の子どもたちは、同じ空気を感じながら直接言葉を交わすことが少なくなっていますね。その意味であいさつは、コミュニケーションの基本です。だからあいさつができるということは本当に素晴らしいことだと思ったのです。もしかしたらそれは、災害時には最も大切なことかもしれませんね。
学校の防災教育の現状は
平野 ところで貴校の生徒は、都内ばかりでなく隣接他県から通ってくる生徒も多いと思います。そのような中で生徒に対する安全対策で、心掛けているのはどのようなことでしょうか。
深田 現状では多かれ少なかれ大抵どこの学校でも行われているような指導の他に、特別な取り組みは行っていないのが実情です。生活指導の中に登下校中の安全指導も入っていますので、例えばこれからの台風シーズンには「自分の身の安全を考えて登校しなさい」とか。もし電車が止まるなど、あまり危険な状態なら無理をしないで安全を第一に考え、場合によっては自宅待機という判断もあるという説明をご家庭にも伝えてあります。
またこれは今後のことですが、広い通学範囲に学校がどのように対処するか。それぞれ主な路線上で拠点となる大きな駅や町があるので、そこに生徒が何人いるかを学年ごとに把握しておく。数字上のデータとしては持っているのですが、これをマップに落とし込んでビジュアル化しておけば誰でもすぐに分かり、緊急時の対策が立てやすいなと思います。
平野 3.11当時、学校はどのような対応をされましたか。
深田 対談~ジュニア防災検定は防災意識のきっかけ東日本大震災の日はたまたま中学校の卒業式の予行演習をしていた日でした。地震が起きた時間は演習の終了後でしたが、まだ校内に残っている生徒が多少いました。グラッと来た時はすぐ全員に招集をかけて校庭に集め、様子を見ていたのですがその後も何度も余震が続きましたね。隣接する護国寺が広域避難場所になっていたので、一旦そちらに避難させ、揺れが安定した頃を見計らい、体育館の方にもう一度移動させました。一緒に護国寺に避難されていた一般の方も含め、その日は約200名が校内で一夜を過ごしました。
平野 食事や避難中の様子はどのようでしたか。
深田 学校に備蓄の非常食がありました。合せて付近のスーパーからは緊急時ということで、倉庫から人数分のカップラーメンを出して頂きました。そして夜中は教員がつき添い、教室に生徒を寝かせました。翌日になってもなかなか電車が動かなかったので、徒歩で帰れる生徒には、上級生が下の学年の生徒を従えて歩きで帰しました。他の生徒は、一時は電話もつながりにくかった中、連絡のついた家庭から順に保護者の方に迎えに来ていただくか、家庭に連絡をし、改めて徒歩で帰宅が可能と確認がとれた生徒については徒歩にて帰宅させました。
平野 3.11の後で学校や子ども達に変わったところは。
深田 地震に対するする意識は相当変わりました。あの時の恐怖は特別なものがあった。今も子ども達の潜在する意識の中にはあると思うのですが、これから先はどうなるでしょうか。東海・東南海地震等、さらなる地震の可能性はありますし、阪神・淡路大震災から18年たった今、心の片隅には残っているでしょうけども風化させてしまってはいけません。3.11は絶対風化させてはいけないと思います。
学校として、地震に対する第一の取り組みは、避難訓練ですね。地震に続いて火災が発生したとか、電車が動かなくなって歩いて帰るとかいろいろ想定して…年2回、春と秋に行うことにしています。ただし訓練ですから、自宅まで歩くのは大変なので、池袋や飯田橋、大塚などある程度の距離のある駅まで歩かせて、そこから先は各自の通学手段を使って帰します。
「ジュニア防災検定」で防災教育を
平野 「ジュニア防災検定」は子ども自身に判断力を養うのが目的です。今後、このような検定を活用した学校独自の防災教育に取り組むことは考えられますか。
深田 基本的には、総合的な学習の時間があるので、そういった中で取り組めればいいのかなと思います。本来は防災に関することは学校教育というよりも、それぞれ各自が意識をもつことが大切です。一般には、文部科学省から各学校に対して、防災教育を積極的に学ばせるような指導が行われるようになれば、より徹底するのかなと思いますが。
平野 下村文科大臣と先ごろ対談しました。その中で下村大臣は、まず公立学校の土曜授業の復活を推進したい、土曜授業の内容は既存の教科の学習とは違い総合学習のような内容にして、防災教育はその一つとして取り組むのが良いのではないかとおっしゃっていました。
深田 「ジュニア防災検定」には事前課題・事後課題というステップがありますね。学校が学年全員で受検することになると、いずれ生徒全員がいつかは自分たちでマップを作る経験をする、そういった学校の伝統を築くことができるかもしれないですね。
ただ難点があって、通学範囲が広すぎることです。学校の付近の生徒と、電車通学の生徒ではそれぞれに想定する場面が全く違います。そのためには学校が様々なデータを用意しなければいないかと考えます。
平野 マップ作りは「事後課題」の一例ですが、実際そのエリアを歩いてみて身体でその距離感を知るとか、地域の文化や歴史を知ることに、単に防災だけを目的とする以上に意味があるかもしれません。公立学校はほとんどが地元の生徒ですが、私立は遠距離通学の生徒もいて、学校周辺の防災マップを作るといってもやりづらい面もあるでしょう。そこを逆手にとり、様々なエリアごとの防災対策を比較して地域的な違いの理由を推測するとか、手法はいろいろあると思います。
保護者の意識は
深田 「ジュニア防災検定」は合格したから何かメリットがあるというものでなく、子ども自身が防災の意識を持って生活する態度を養うことが目的ですね。本来はそれが当たり前になるべきと思います。
平野 最終的にはそうなることが理想であり、私たちの一つの最終目標でもあります。「ジュニア防災検定」は、いずれはそうなるためのきっかけにしたいと思います。防災にはゴールはない、だから意識を形成してもらうことが大切です。保護者の方の防災に対する意識はどうですか。
深田 現在は仮設の校舎なので、建築中の新校舎の耐震構造はどうなのかとか聞かれます。やはり3.11を経験して、保護者の安全に対する意識は大きく変わってきました。
平野 「ジュニア防災検定」には事前課題があり、家庭内で防災について保護者などと話し合ってもらいます。またテスト問題用紙を持ち帰りますから、それを見ながら家庭内で家具の配置や収納の仕方を話し合うなど家族のコミュニケーションが活発になり、保護者の意識もより高まると期待しています。
深田 防災が意識の中にきちんと定着して、何かあった時ここに集まろうとか、家庭内で話し合いが行われていることが大切です。災害が実際に起きた時、それが行動につながります。
平野 そのような話し合いができている家庭が意外と少ないようです。
深田 刷りこみと言いますが、意識の中に埋め込んでおくことが必要なのです。保護者への説明では、まさにこれは「命を守る学び」なのだと、このことに対して保護者は否定できません。
本校では「ジュニア防災検定」を通じて防災教育に取り組みますと言うことが、保護者へのアピール材料になる。その取り組みによって「安心できる学校だから」と生徒を預けてくれる保護者が増えれば良いですね。
平野 本日は大変貴重な時間とお話を、どうもありがとうございました。

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