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対談・トップインタビュー

防災も教育もオールジャパンで
対談~『生きる力』育む防災教育
3.11から間もなく2年半が経過しようとしている。また関東大震災の経験から設定された9月1日「防災の日」が近付いている。近い将来に大災害の危険性が予測されている現在、子どもと防災教育の推進はこれまで以上に重要なテーマだといえる。そこで「子どもと防災」をめぐって、防災教育に関する文科省の取り組みをはじめ、学校と民間・地域の連携のあり方などについて先ごろ、下村博文文部科学大臣と、平野啓子理事長が対談した。
下村博文 氏 下村博文 氏
文部科学大臣。昭和29年5月、群馬県出身。平成元年、東京都議会議員初当選。平成8年、衆議院議員初当選(東京11区、現在6期目)。平成24年12月26日より文部科学大臣・教育再生担当大臣。高校・大学は奨学金で卒業し、多くの人々に助けられたことから「恩返しを」という気持ちで大学時代は交通遺児育英会の活動に参加。また早稲田大学雄弁会の経験から政治家を目指した。
平野啓子 氏 平野啓子 氏
一般財団法人防災検定協会理事長。静岡県出身。「NHKニュースおはよう日本」のキャスターや大河ドラマの語りを務めた。早稲田大学在学中から声の表現に取り組み、名作を暗唱するプロとして今年で25周年を迎える。現在、大阪芸術大学放送学科教授、武蔵野大学非常勤講師(伝承文化研究)。さらに文学や各地の伝承などを題材に、語りを通じた防災教育やその普及・啓発にも力を入れている。
経験を次世代に伝えたい
3.11当時の印象はどのように:平野
大臣:子どもたちの「生きる力」感じた
平野 あの東日本大震災が起こった3.11、振り返ってみると、当時はどのようなお気持ちだったでしょうか。
大臣 震災の当時は野党の立場でしたが、シャドウキャビネットで自民党の文部科学大臣でした。3月30日に仙台から気仙沼、陸前高田などをまわり、震災から2週間余りでそのままの状態でしたから、自然に対する人間の小ささ、何もできないという無力感を感じました。
それでも被災された方々が、誰に憤りをぶつけるのでもなく黙々と耐えながら、早く復旧したいという思いに頭が下がりました。家や家財を流され、家族を亡くされた方もいる学校の体育館で、避難生活されているたくさんの方とお会いしました。野党であっても自分たちでやれることは何でもやらないと申し訳ないとの思いから、必要な物資を持って行ったのですが、水、食糧などはかなり行き渡っていました。ただ、ある避難所では乾燥機が欲しいとの声を聞きました。600人位が一緒に生活する中ですが、その半分は女性ですから、洗濯物をその辺に干すのはいやなのだと気付きました。
平野 女性には気になりますね。人目につきますから、下着など見られたくないですしね。
大臣 どこに何が必要なのかを具体的にニーズに応じて、キメ細かく、やれるところはやって差し上げるのが本当の支援なのではないかと思いました。
平野 対談~『生きる力』育む防災教育 私も最近、これは自分の思いで自主的に取材に行ったのですが、仙台、気仙沼、陸前高田を巡ってきました。今でも地元の方は懸命に立ち上がろうとされているし、自分たちの経験を皆に忘れないでほしい、だから自分たちも苦しいけど経験を伝えていくと。このことが将来の災害で、被害を受けた方たちの役に立てばいいと。もし役立たないことを自分たちがしていたら、亡くなった人たちに申し訳ないという思いを、一杯にぶつけてこられたのが印象的でした。
大臣 私も現地をまわったなかで、子どもたちの「生きる力」はすごいなと、いろいろな場所で感じました。その一つが今年3月、宮城県女川町を訪問した際、出会った中学生たち。この経験を風化させないために記念碑を建立しようと、中学生が自ら計画していたのです。PETボトルで100円募金を集める「いのちの石碑プロジェクト」という企画で、東京に修学旅行に行ったらいろいろな場所に募金場所を設けたいと聞いたので、文科省にも置きにいらっしゃいと伝えたところ4月17日に来て、1か月間で相当な金額が集まったようです。
1000万円くらいあると女川の21の浜すべてに石碑を作れるそうですが、それを中学生が自ら発案して、修学旅行の機会を生かし行動した。自分たちのふるさとを愛し、同じような被害が起きないように意識を高めようと、災害にも打ちのめされずに活動しているのは素晴らしいし、是非応援してあげたいなと思いました。
ハードとソフトの備え
学校は災害時の重要な拠点:平野
大臣:27年度の早期に耐震化完了
平野 今後も災害が起こったら、地域の避難拠点として学校はとても重要になります。何より子どもたちの安全安心のために、学校の耐震化は最優先で進めて頂きたい事業です。
大臣 学校の体育館などの施設は避難所にもなる所なので、できるだけ早く、しっかり対応しなければいけない。私は板橋が選挙区ですが、板橋は学校の耐震対策がまもなく事実上100%完成します。首都直下地震がいつあるかわからないなか、古屋圭司防災担当大臣と板橋の木造住宅密集地域である大谷口という場所に、災害対応や街づくりの実際を視察しました。また最寄りの区立中学校、そこは耐震対策は済んでいますが、防災教育の様子を見ました。
平野 学校の耐震対策は、現在のところどのように進んでいるのでしょうか。
大臣 文科省では現在、耐震対策については平成27年度のできるだけ早い時期に、建物本体の耐震化を完了させることを目標に、自治体の要望を踏まえ必要な耐震化予算を確保しています。25年度予算執行後は94%まで進む見込みです。
平野 それは是非、強力に進めて頂きたいですね。
大臣 さらに天井等の落下事故防止対策も、建物本体の耐震化と同様に27年度までのすみやかな完了を目指すよう自治体に要請しております。このようにできるだけ早くキメ細かく対応していきたいと思います。

高まる防災教育の重要性:平野
大臣:教育の成果が現れる防災
平野 学校建築の耐震化をハード面の施策とすると、ソフト面である防災教育も、その重要性がますます高まっていますね。
大臣 「学校防災のための参考資料『生きる力』を育む防災教育の展開」を、すべての小中学校に配布しています。具体的な事例なども掲載して、学校で実践的な防災教育が展開されるように作成していますので、防災教育をしっかりやっていただきたい。今回の東日本大震災では、多くの子どもが犠牲になった地域、ほとんどが助かった地域と、地域差がありました。その差は、日頃から防災教育を行っていた、その成果が出たと思うのです。防災教育をきちんとやって頂いて、「災害は忘れた頃にやってくる」のではない。南海トラフも首都直下地震も、忘れた頃ではなく今日明日にあっても不思議はないのが、我が国の状況ですから。
さらに地震津波だけでない、異常気象で集中豪雨がいつあるか分からない中で、しっかりと防災教育を学校教育の中で位置付けてやっていくことは大変重要なことだと思います。
土曜授業の展開を促進
防災教育の位置づけはどこに:平野
大臣:地域ぐるみの土曜授業でも
平野 そのような“伝える”という作業が途絶えないようにすることも大切ですね。いつしか元の生活に戻るに従って、つまり復興すればするほど忘れられていくというもどかしさがあります。ずっと伝え続けるためにはどうしたらいいのでしょうか。
大臣 一つには学校教育の中で防災教育というものをきちんと位置付けていくこと。9.1や3.11を起点として防災訓練などされるでしょうし、年間を通じて学校教育が取り組まなければいけません。それは被災地だけではなく日本全体が自然災害の極めて頻繁な国ですから、定期的にきちんと防災教育が行われていくよう、文部科学省として支援していきたいですね。
平野 教科として位置づけることも検討に上っているのでしょうか。
大臣 まずは土曜授業を推進したいと思っています。時代の変化に応じて子どもたちにもっといろいろ経験したり学んでもらいたいことがあり、そのためこれまで以上に土曜授業に取り組みやすくなるよう、学校教育法施行規則の一部を改正することを考えています。あわせて、地域の方々が主体の地域での総合学習的な取り組みも可能になるよう、環境整備します。いろいろなメニューの中で、地域ぐるみの防災教育に取り組むなども考えられるでしょう。どのようなメニューにするかは、それぞれの自治体・教育委員会に判断してもらいます。
平野 そのような柱がしっかり確立されると、さまざまな学校の事情により私たちからすると進んでいないように見えた防災教育が、大きく推進されるかもしれませんね。
学校と民間の連携に期待
民間も学校と連携し防災教育を:平野
大臣:教育はオールジャパンで高める
平野 民間が学校に協力するということについては、どのようにお考えですか。
大臣 教育というのは、オールジャパンで取り組むべきものだと思いますね。今までは社会教育、家庭教育、そして学校教育と言われて来ました。しかし地域、家庭の教育力が弱くなっています。ですから教育はすべて学校教育が担っている面があるのですが、学校教育も、多様化する社会の中で先生はご苦労されている。ですからオールジャパンという発想で、あらゆるレベルで教育力を高めていくことは、子どもたちにとって、また日本にとっても大切なことと思います。民間をはじめいろいろなレベルで、社会的に有意義なことはどんどん活動していただきたいと思いますし、そこから子どもたちが触発されることにつながるのであれば、それは素晴らしいと思います。
平野 その時、民間だけで頑張るより、学校との連携や先生方とも情報交換ができるのであれば、より効果的ですよね。
大臣 もちろんです。先ほどの土曜日を活用した教育活動の事例ですが、大分県豊後高田市では市教育委員会が全ての小中学校を対象に、土曜日を活用した教育活動に取り組んでいるそうです。地域のそれぞれ得意な分野を持つ方々が参画していろいろなメニューを用意し、子どもたちに指導する形でやっている。そこに学校の先生はボランティアで手伝っているけど、主体は地域の人たちです。参加するかは子ども達の自由ですが8割位参加しているそうです。これはまさに地域総ぐるみの取り組みですね。
平野 カリキュラム外の時間ですが、土曜日の活用という方法で、地域と学校が連携していくことは可能なのですね。
大臣 現在は公立の場合は学校週5日制だから原則月曜から金曜までが正規の授業です。そういう意味で土曜日は特別メニューなので、地域の方々が主体で取り組む場合、自治体や教育委員会が推奨する内容であれば、いろいろなことができます。防災教育にはいろいろな地域の方々に参加協力してもらいながら取り組むことができ、とても有意義だと思いますね。
平野 たとえば私の場合は文学を語り伝える活動を本業にしているのですが、さらに物語も含めて、地域に伝わる大切なものを伝えています。たまたま防災教育につながる「稲むらの火」や「津波てんでんこ」、「波きり地蔵」、「エルトゥール号の海難事故」などの話と出会い、何とか子どもに伝えたい気持です。このように各土地に残る先人の教えや、困難を乗り越えた人々の話を伝承してほしいですね。
大臣 よろしいのではないでしょうか。それは既存の授業の中では難しいでしょうから、土曜日の特別メニューとして、できるだけその地域ならではの教えを子ども達に継承する、少なくとも知ってもらうというのは素晴らしい取り組みだと思いますね。是非、地域の活性化にお手伝いをしていただければと思います。
問題解決力から貢献力へ
防災教育で問題解決の力を:平野
大臣:世界に貢献したいという生徒たち
平野 何かの課題に出合った時、問題解決できる力を身につけることが大事だと以前から言われてきました。この防災教育をとおして、そのような力を身につけられたらと思います。教育にはやることが多いですが、とりわけ防災教育は大きな位置づけだと考えたいですね。
大臣 もちろんその通りです。東北の子どもたち、特に福島では地震・津波だけでなく原発事故や風評被害など本当に困難な中で、それでも負けずに頑張ろうという子どもたちの生きるエネルギーや、こういう局面だからこそしっかり生きなくてはいけないという、ある意味で“魂の覚醒”みたいな感覚を感じるような子どもにたくさん会いました。
今年1月、いわき市に行った時、一緒に給食を食べた生徒会の子どもたちが10人位で、そのうち半分位の子どもたちが、将来は世界のために活躍したいと言っていました。世界のために貢献できる人間になりたいと、その発想がすごい。それはある意味で人類に対する恩返しだと。私の中学生ごろでは、世界という発想はなかった。
平野 震災の時に世界中から支援の手を差しのべられたことへの感謝の気持ちも多分に影響しているのでしょうか。
大臣 ある女子生徒は、医者になって恩返ししたいと具体的に目標を持っていました。あの極限状態にあったいわき市の子がそう言った、そこに魂の覚醒を感じました。
平野 今日は、本当に素晴らしいお話を聞かせて頂きました。ありがとうございました。

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