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対談・トップインタビュー

地域の防災意識の向上に
日本PTA全国協議会・尾上浩一会長、防災検定協会・平野理事長と対談
公益社団法人日本PTA全国協議会(日P)から平成26年12月、ジュニア防災検定(JBK)の後援を頂きました。日Pの尾上浩一会長は文部科学省中央教育審議会学校安全部会で委員を務める他、兵庫県出身でご自身が阪神・淡路大震災の災害時の体験を持ち、防災教育には積極的。対談では、外泊時の避難路チェックなど日頃の心がけにまで話が発展しました。そして子供ばかりでなく、大人にも防災意識を養うことが大切であるなどの確認が行われました。
尾上浩一日本PTA全国協議会会長 尾上浩一 氏
公益社団法人日本PTA全国協議会会長。兵庫県出身。平成25年度に会長に就任。兵庫県PTA協議会会長も兼務している。中央教育審議会の委員を務め、保護者として、また、社会を担う責任世代の立場で国が行うあらゆる教育改革、子どもたちを取り巻く環境の整備に関する施策等に積極的に意見・協議し、よりよい教育環境づくりのために力を入れている。また、責任ある全国組織として関係諸機関との連携も密にしその活動を展開している。
平野啓子 氏 平野啓子 氏
一般財団法人防災検定協会理事長。静岡県出身。「NHKニュースおはよう日本」のキャスターや大河ドラマの語りを務めた。早稲田大学在学中から声の表現に取り組み、名作を暗唱するプロの語り部として今年で27周年を迎える。現在、大阪芸術大学放送学科教授、武蔵野大学非常勤講師(伝統文化研究)。さらに文学や各地の伝承などを題材に、語りを通じた防災教育やその普及・啓発にも力を入れている。
防災教育はこれから必要な課題
平野 防災教育の必要性への認識が高まるにつれて、私共のJBKに対する理解と受検の 動きが、学校関係者にじわじわと広がってきました。今後の進展には、PTA(保護者)の理解が不可欠と考えています。日Pからご後援を頂いたことは大きな力になると思います。賛同を頂いた経緯などお聞かせ下さい。
尾上


平野






尾上
日Pが推薦(後援)をするかどうかは、会長を含めた三役で会議によって合意することが基本で、子供たちの健全育成のためにふさわしい内容であるかが、審査のポイントになります。防災教育は当然のことながら、絶対にこれから必要な内容、というか遅い、もっと早くからやっていたら良かったと個人的な思いはあります。
尾上浩一日本PTA全国協議会会長、防災検定協会平野理事長と対談 私は以前、中央防災会議等に参画して、防災教育を含めた安全教育の方向性を示した国の計画が閣議決定されたり、災害対策基本法が改正され地域の防災力の向上が明記されたりしたにもかかわらず、当時はなかなか学校現場での防災教育が進まなかったことを歯がゆい思いで記憶しています。それが今ここに至って、本当に強力なパートナーを得た気がします。
私は文科省中央教育審議会の学校安全部会に委員で参画していますが、学校教育の中に防災教育をどの様に組み入れるかが難しい。日Pの会議では中教審での議論も説明しながら、防災教育は進めるべきだと説明して賛同を得たのが経緯です。
連携が大きな力になる
平野 ところで日Pは震災後、義援金などの支援に積極的に取り組まれていますね。
尾上 阪神・淡路大震災では災害発生から4か月後には特別委員会を立ち上げ、即、募金活動を始めました。総額11億円余り集まり、兵庫県と神戸市の2協議会に2億円を渡し、残る9億円は公益信託基金としました。主に親を亡くした子供達への就学援助金として、また学校の学習活動や備品として使っていただきました。その他、兵庫県内では日Pとは別に各市町村P連から集まった義援金があって、保護者への支援等ができました。
平野 素早いフットワークで、保護者の連帯感が感じられます。
尾上 その経験を持つ日Pが、先の東日本大震災では動きが遅く、義援金がなかなか集まらなかったのは残念です。それでも一時金として金額は2億1000万円を被災各県に贈呈できました。その後も「心のきずな61キャンペーン」として募金活動を継続し、集まった3億5000万円余りを、申請のあった約600人の子供達に平成26年3月に就学助成金として支給しました。その後は活動支援として、上限500万円で希望する事業を申請してもらっています。今年度は、同じ風評被害を経験した、熊本・水俣市P連との交流事業を昨年度から行っている福島県P連を支援しました。
平野 それはどのような内容の交流事業でしょうか。
尾上 中学生同士の交流で、今年度は水俣から招いて福島県内を視察してもらい、復興に向けての交流をしました。水俣の話は私も子供の頃に勉強しただけでしたが、改めて話を聞くと本当に悲しい歴史があったのですね。地域名を冠して「水俣病」と名付けられるなど。今度は福島・原発が20年後30年後にどのような影響が出るか、将来が分からないからこそ今、しっかり勉強しておこうという主旨で、中学2年生が中心の交流事業です。
平野 連携することで大きな力となる、日Pの取り組みがその良い例ですね。
尾上 核となるのは学校ごと(単P)の活動で、その内容や状況は、当然ですが全国一律ではありません。しかし子供を中心に地域・大人を巻き込んでより良い教育環境を作って行く、という基本は同じです。自分の子供の事だけを考えるのではなく、地域全体を考えて取り組むというのが前提です。
中心は学校行事ですが今後は、例えば防災の取り組みは学校だけでは完結できないので、専門家や関係者など学校以外の誰かをつなげていく活動もすごく大切になっていくと思います。地域の人ができるだけ学校に入っていけるような“風通し役”のようなものも担っていると思います。 またPTA活動を通じて同学年の親を知り、共通の悩みも話題にできる、いろんな職業の人がいるので課題解決につながることもある。PTA活動は、「親・保護者の学校」と言えますね。
災害体験からの思い
平野 会長は兵庫県のご出身なので、宜しかったら、震災の体験を少しお聞かせくださいますか。
尾上 私は姫路なので神戸からは少し離れた地域ですが、神戸には妹一家がいました。当日の朝、かなり揺れたのですぐTVをつけてみたら何のニュースもなく、どこが震源で被害がどの程度か分からない状況でした。しばらくして「そっちは大丈夫?」と妹からの電話でした。棚の中の物が全部床に散乱して家の中がめちゃくちゃだと。「ガスの臭いがするから電話かけたのに、つながらない。今後は連絡しにくくなるかもしれない」と話して切った後はずっと不通の状態でした。さらに1時間ほどしてからTVで、神戸市内の高速道路やビルが倒壊し至る所で火の手が上がっているヘリからの映像が中継され、大変な事態になっていることを確認できたのです。
平野 同じ兵庫県内でも、情報が途絶えてしまうというそういう状況でしたか。
尾上 おにぎり、水を車に積んですぐに向かったのですが、明石で止められてその先は入
れなかったです。神戸そのものが崩壊していたのだから、そこからの情報発信はなく、現地に行けたのはその数日後、それも途中まで電車を乗り継いで最後は徒歩という状態でした。やっとたどり着いてもその一帯に家はなく、誰が何所に居るのか分からず、会うまでに何日もかかりました。
平野 そのご経験から、日頃の備えについて何か思うことはありましたか。
尾上 私の地域には山崎断層というのがあり、震災の10年くらい前ですが、大きく揺れて 姫路城の瓦が落ちたことがあり、そういう地域に住んでいるという意識は身についていました。だから震災前から、もしもの時の連絡方法などを家族内で話し合っていました。姫路以外に神戸、大阪、東京、四国に親戚がいるので、何かあった時の連絡先を順番に決めました。一時期は子供のランドセルにパウチした連絡票を入れていましたが、今は別の面で問題がありますね。震災後には家庭内の棚やタンスの転倒予防のため、機具を探しまわりました。
防災の取り組みは家庭・地域全体で
尾上 学校安全部会の審議に参加する中で思ったのは、世界とまでは考えなくても少なくとも日本国内ではどこに居ても、想定されるあらゆる災害に対処できるような防災教育をする必要があるということ。ここは津波の心配がない地域だから省いておこうとかではなく。まずは生活圏で起こりえる災害を中心にした防災教育をするとしても、人は移動する、旅行もするから津波のことを想定していなかったらどう対処したら良いか分からない。そう思うので、やるとなったら日本中で同じことをやらなければならないと話をしました。
ただし学校安全は防災だけではない、交通安全や生活安全など幅広く、学校教育としてどこまで踏み込むか。特に防災教育は学校教育だけでなく家庭・地域全体の課題として取り組むべきだというのが審議会の方向です。JBKなどはまさに家庭・地域が主体に行う取り組みとしてふさわしい内容ですね。
平野 交通事故などの事故はある程度の予測や回避が可能な面があるのですが、自然災害には、事前予測が困難で遭遇してしまったら逃れられないという厳しさがあります。また地震・津波だけではなく、最近は土砂災害や火山の噴火、台風、ゲリラ豪雨や落雷、竜巻などの自然災害の発生頻度が高まっています。
JBKではペーパーテストで様々な種類の災害に対する基礎的な知識を確認する他事前・事後の課題を課すことで、いざという時の行動に結びつく日常の準備と心掛けを身につけてもらえる内容です。またJBK受検を機会に、子供だけでなく家族や地域の防災意識の向上につながることが最終的な目的です。
尾上 私がどこに行っても、ホテルに宿泊して最初の行動は、部屋にある避難経路の説明 書を読み、非常口を確かめ、開くのか、地上まで降りられるのか、自分で実際に歩いて確認することです。ホテル以外でもどこに行ってもその行動が身についています。文科省でも35階から地上まで降りたことがあります。一度だけですが、あるホテルでは非常口の扉が閉まっていて階段に出られないことがありました。
平野 その確認は素晴らしい。基本的なことですが、そこまで実行する方はあまりいらっしゃらないのではないでしょうか。自助努力の一つとして、皆さんにもご紹介したいものです。
JBKは東日本大震災直後から、学校以外で子供たちに何かできることがないかと、志を持った人たちが集まり知恵を出し合う中からまとまったものです。多くの子供に受けてもらい、家庭・地域の防災にも役立ちたいと考えていますので、是非多くの保護者にこれを周知していただければ幸いです。
尾上 いじめ防止や子育てなどの多くの課題に、日Pとしてもコンクールや表彰などで関係機関と連携して取り組んでいます。将来はそのように連携できれば良いですね。
平野 本日は貴重なお話を伺えて、有難うございました。


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