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対談・トップインタビュー

ジュニア防災検定は意識改革のツール
神奈川県座間市・遠藤三紀夫市長、防災検定協会平野理事長と対談
平成25年7月、自治体としてトップを切ってジュニア防災検定(JBK)の実施を決定したのが、神奈川県座間市です。駐留米軍や自衛隊の基地・駐屯地でもある土地柄、災害派遣などで出動する姿を目の当たりにしているだけに、多発する自然災害の脅威は他所の出来ごとではないと語る遠藤市長。市民活動のNPO団体が行政と連携して防災、減災に取り組んでいます。市の災害対策作りや各種の講演会、イベントなどそれぞれのレベルに応じた防災の意識改革を進める中、JBKはその確認として位置づけられているそうです。JBK実施の経緯や、その背景にある防災の取り組みなどを伺いました。
遠藤三紀夫  氏 遠藤三紀夫 氏
神奈川県座間市長。昭和32年10月28日、横浜市鶴見区生まれ。早稲田大学教育学部卒。平成20年より座間市長として現在2期目。神奈川県市長会監事。これまで株式会社トヤマ代表取締役、座間青年会議所理事長ほか多数の公職を務める。趣味は旅行・読書。


平野啓子 氏 平野啓子 氏
一般財団法人防災検定協会理事長。静岡県出身。「NHKニュースおはよう日本」のキャスターや大河ドラマの語りを務めた。早稲田大学在学中から声の表現に取り組み、名作を暗唱するプロとして今年で25周年を迎える。現在、大阪芸術大学放送学科教授、武蔵野大学非常勤講師(伝承文化研究)。さらに文学や各地の伝承などを題材に、語りを通じた防災教育やその普及・啓発にも力を入れている。
意識改革の一環で"読み聞かせ"
平野 座間市の防災についての取り組みを伺うにあたり、まずは市長ご自身が率先して、「読み聞かせ」を通して災害への意識改革を呼び掛けられているとお聞きしました。どのような切っ掛けで始められたのですか。
遠藤 神奈川県座間市・遠藤三紀夫市長、防災検定協会平野理事長と対談東日本大震災で、津波が押し寄せる中、最後まで防災無線で住民に避難を呼び掛けて命を落とされた宮城県南三陸町の危機管理課職員・遠藤未希さんのニュースに初めて接した時、雷に打たれたような衝撃を受けました。文字は違いますが名前が私と一字違いという偶然もあって、本当に印象的でした。そこで市長である以前に一人の人間として、自分ができることは何かを考えました。 そんな時ご縁があった『八郎』(作:斎藤隆介)を、ある時、市の図書館で行われていた読書サークルにおじゃました際に聞いて頂いたのがひとつの切っ掛けです。20人ほどでしたが、部屋を暗くし静かに聞いてとても喜んで頂けました。もっと色々な所で公演するべきだと勧められて、それからは小学校にもおじゃまして子供達に聞いてもらっています。
平野 現職の市長という立場にいらっしゃる方が、市民に読み聞かせをされるとは、なんて素敵な事でしょう。ちょっとだけ、ここで実演して頂けますか。
遠藤 (語りを実演)「わかったあ! おらが、なしていままで、おっきくおっきくなりたかったか!おらは、こうしておっきくおっきくなって、こうして、みんなのためになりたかったなだ、んでねが、わらしこ!」――これは物語りの最後の部分で、寒風山を海に投げ込んだ八郎が自分の身体で津波を防ぎながら、村の子供達に語りかける場面。子供達に私が最も伝えたい部分です。
平野 表情豊かで気持ちが入っていて素晴らしいです。自助・共助の精神というものが子供達にも伝わるのではないでしょうか。
遠藤 皆さんはこうして身体を揺らせて、夢中で聞いてくれます。小学校だと1学年2、3クラスが合同で、授業の一環として時間をとってくださっています。そして終了後は一緒に給食を食べるのです。市内小学校は11校あるのですが、ひと通り回ったかなと思います。
平野 ただでさえご多忙の市長さんが子供達の授業までなさる、その意義は何でしょうか。
遠藤 もう一つ、私が子供達と直接話す機会があります。小学校3年生が社会科見学で市庁舎を訪問に来ます。そこでも私が20分程度、時間をもらってお話します。市役所の仕事、ご両親の仕事などの話から働く事の大変さや、子供達がルールを守って生活することなど当たり前の内容なのですが、子供達には結構これが印象に残るようで、後からお礼の手紙や作文がたくさん届きます。予想外だったのは、引率の先生方が一番喜んでくれることですね。
JBKはモデル校の取り組みとしてスタート
平野 東日本大震災の前と後とでは、市民の防災意識という点で違いは見られたのでしょうか。
遠藤 座間には米軍や陸上自衛隊の基地があり、これまでにも様々な風水害や噴火などの自然災害があると、出動していく姿を目にして来ました。とりわけ東日本大震災の震災後には、出動した方々が汗まみれ泥まみれになりながら活動する姿が報道されるのを、市民は頭が下がる思いで見守りました。一方で日頃の備えの大切さを、痛切に感じたことと思います。
平野 その中で市の事業として、JBK実施を決定された経緯をお聞かせ下さい。
遠藤 震災後、市内の各学校では、子供達が自発的に小遣いを貯めて、義援金として市役所に届けに来てくれたりしました。感受性が強く、理屈でなく行動できる年代の小中学生の彼らにこそ、将来への備えとして防災への意識改革をすすめるチャンスだと思いました。 意識改革はソフト面の備えです。ハード面はお金をかければ進められるし目に見えるので予算化しやすい整備であるのに対して、ソフト面の整備はどれだけ進んだのか分かりにくいものです。JBKは市の防災教育への取り組みを確認するという意味で、一つのツールになります。
平野 JBKでは例えば初級受検は小学校4、5年生程度を勧めています。市内全校で実施して下されば、10年後には10代の若者である市民全員が、この検定受検を通して防災の高い意識が養われ、いざという時の心強いソフトパワーになるはずです。
遠藤 JBKの実施については25年度からでしたが、すでに期の途中だったので、予算措置と学校の行事計画の問題とがありました。そこでまずは、JBK受検を希望する児童生徒を募り実施するという形でスタートしました。平成26年度は、市内小学校1校をモデル校に指定し、防災教育を行い、その成果確認のツールとしてJBK受検を位置づけることとしています。
市民団体とも連携しソフトパワーに
平野 座間市全体の、ソフト面での防災への取り組みにはJBK以外にどのような事業をなさっていますか。
遠藤 東日本大震災後に始めたのが「シェイクアウト訓練」という、展示ではなく行動するイベント。毎年1月23日11時になると市内一斉にその場で、机などの安全な場所に身を隠します。米・ロスの大震災後に考えられたプログラムで、「安全行動 1-2-3」というルールに従ったもの。震災発生直後の適切な行動で、自分の安全は自分で守る。その後の救助活動でも、救助されるより救助する側が多ければ、より多くの命を救うことができるという発想です。 学校や企業・団体が登録して参加しますが、座間市の昼間人口約10万人に対して昨年は33%、今年43%が登録し、来年は50%以上を目標にしたいと思います。
平野 「自助」「共助」の発想で、それを一斉に、行動するところがシンボリックですね。
遠藤 特に3.11以降、地域住民の連帯感が薄れてきたことへの危機意識が共有されています。市民団体(ざま災害ボランティアネットワーク=ZSVN)が主催し市が後援する形で、防災関連の講演会やイベントが盛んです。 「行政が何かやってくれるのを待つだけではいけない」と呼びかけ、市の防災計画作りにも参画していただくなど連携を図っています。行政の仕事に市民の目線が盛り込めるのは有難いことです。
平野 JBKも内容を日々、検討し深化させるよう努力しております。どうかこれからも市のソフト面の進展の確認ツールとして、お役にたてれば嬉しいです。


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