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対談・トップインタビュー

地域との共存を目指す「防災キャンパス」作り
拓殖大学福田勝幸理事長、防災検定協会平野理事長と対談
東京都文京区の地下鉄茗荷谷駅からほど近く、都心型キャンパスの典型として、ビルや住宅が立て込んだ地域にある拓殖大学。ここ文京キャンパスは創立から114年の歴史を刻んできた同学発祥の地です。百周年を機に始まった「拓殖大学ルネッサンス事業」の一環で、伝統を維持しつつ新たなキャンパスの顔として、校舎などの整備事業が進行中。「防災と省エネルギー」に対応しながら、地域交流の核としての機能も備えています。防災へのハードとソフト両面からの備えを伺いました。
福田勝幸 氏 福田勝幸 氏
拓殖大学理事長。昭和19年、青森県生れ。42年拓殖大学商学部を卒業。同年赤尾金属工業株式会社に入社、54年同社を退社し拓殖大学学生主事室に勤務。その後学生部次長、学務部長、総務部長、事務局長を歴任。平成15年常務理事、23年6月理事長に就任。


平野啓子 氏 平野啓子 氏
一般財団法人防災検定協会理事長。静岡県出身。「NHKニュースおはよう日本」のキャスターや大河ドラマの語りを務めた。早稲田大学在学中から声の表現に取り組み、名作を暗唱するプロとして今年で25周年を迎える。現在、大阪芸術大学放送学科教授、武蔵野大学非常勤講師(伝承文化研究)。さらに文学や各地の伝承などを題材に、語りを通じた防災教育やその普及・啓発にも力を入れている。
災害時の拠点としての機能が充実
平野 現在は「防災と省エネルギー」のキャンパス作りに取り組まれて、間もなく竣工と伺いました。
福田 来年1月竣工予定です。ここは開学当時からのキャンパスで老朽化が進んだこともあり、百周年記念の「拓殖大学ルネッサンス」から整備事業に取り組み始めました。
歴史のある地域なので、関東大震災や東京大空襲には、近隣の方々の避難場所になりお役に立てた、という記録が残っています。そのため日頃の準備は怠りなくやっており、所管する消防署との合同訓練に参加するなど、過去の教訓が生かされているようです。
平野 すると東日本大震災から急いで対策を進めたわけではなかったのですね。
福田 東日本大震災の際には、職員が分担して学内を点検したり、食料の備蓄も十分されていたので150人位がキャンパスで過ごしたのですが、落ち着いた対応ができていました。
平野 防災についてハード面では、主にどのような準備がなされていますか。
福田







平野
拓殖大学福田勝幸理事長、防災検定協会平野理事長と対談 校舎など建物はすべて耐震防災設備が施されています。また水と電力の確保に心掛けており、地下に電源、灯油を備蓄しています。さらに各建物にはフロアーごとに緊急時の備品ロッカーを設置して、必要な物を手近に置く事で素早い対応がとれるようにしてあります。
特にトイレは下水専用の大型タンクを備え、インフラ復旧に時間がかかった時には近隣の方々にも開放できます。
一般の住宅や商店などがこれだけ立て込んだ地域ですからね。これも関東大震災時の教訓でしょうか。
福田 この地域は3町会あり、日頃から交流を持ち、キャンパスの中央広場は地域のイベント会場としても使われ、学生が参加して手伝っています。災害時の協定も設けており、寄せられる要望で最も多いのがトイレの問題です。
防災リーダーの養成コースを構想
平野 それだけしっかり準備がされていると分かれば、保護者の方々も安心して我が子を貴学に通わせられますね。次にソフト面での防災対策はいかがですか。
福田 年度初めには学生全員に防災対応マニュアルを、これと別に教職員には専用マニュアルを配布しています。また各教室には教卓の見える所に「授業時における地震対応について」というパンフレットを掲示しています。そして学内に消防隊組織があり、マニュアルをおさらいする意味で防災訓練を毎年1回、全学生対象に行っています。八王子キャンパスも同様です。
特別なことはなく当たり前の内容ですが、分かり切ったことを実際の行動で確認するところに意味があると思うのです。いざという時には動転してしまうものですから。
平野 パンフレットには避難指示系統がはっきり示され、分かりやすいですね。集団行動では、リーダーが不在では混乱を生じますから。
福田 非常時には誰がどのように指示を出すか、分からなくなるものです。普段から確認しておくことが求められます。
まだ構想の段階ですが、大学の授業に防災関係の理論と意識作りができる科目を設けたいと思います。さらに大学院の地方政治行政研究科で、防災のリーダー養成ができるコースが設置できないかとも考えています。
平野 実現できたら素晴らしいです。防災は大学のカラーになりますね。
福田 本学は桂太郎公が初代学長ですが、3代目が関東大震災の東京復興を担った後藤新平学長です。建学の精神が「自ら治める」、自助の精神は本学の基本です。今の社会で「安心安全」が全てのキーワードですが、実はそれを支えるのは自分達自身でなければならない。誰かが守ってくれるわけではないのです。
スポーツで養われる「自助」の力
平野 ジュニア防災検定は、家庭の防災対策を家族と話し合ってレポートする事前課題、知識の確認と応用をみるペーパーテスト、地域の災害対策や歴史を調べる事後課題という3段階で構成しています。その経験を通して自ら考え行動できる「自助」「共助」の力を子ども達に養うものです。検定を受検した子ども達が地域で防災のリーダーに育ってもらいたいと願うと同時に、貴学の学生達もリーダーになることを期待しています。
福田 本来、人間には防衛本能があるのに、きちんと「自助」の方法を教えられてこなかった気がします。子どもの時からジュニア防災検定を受検して、防災意識が養われるのは素晴らしいことですね。
学生を見て思うのですが、スポーツをしている学生ほど集団行動が出来ています。私が大学の経営方針で強調しているのがスポーツの振興。スポーツを通して「思いやる心」と「困難に出会ってもくじけない力」が養われるからです。
平野 スポーツと防災教育…なるほど通じるものがありますね。
福田 スポーツで養われる、瞬時に体が動ける感覚や集団の行動力は、「自分の命を守る力」の基本になるのではないでしょうか。
平野 貴学は様々なスポーツ界でも活躍されていますが、2020年東京五輪に向けての取り組みやお考えは。
福田 ロンドン大会では本学からレスリング・ボクシング・マラソン競技で延べ7人が日本代表で参加し、メダル2つを獲得しました。今後もレスリングは良い成績を出せると思います。次回リオ大会でも本学の現役学生や卒業生が代表に選ばれることを期待しております。現役・卒業生共に、大学として全面的に応援します。彼らの活躍を通して、大学全体が励まされますから。


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