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対談・トップインタビュー

災害には「冷静に正しく恐れる」
対談~ハードとソフトの整備で対応を
世界から信頼される強靱な国土づくりのために、災害対策の基本姿勢を「冷静に正しく恐れること」と語る古屋圭司・内閣府防災担当大臣。そのために「ソフト・ハード、官・民・個人をあげた防災・減災対策が何よりも大切」だと述べ、防災意識の形成を目的にした「ジュニア防災検定」にも大きな期待を寄せられました。平野啓子理事長から質問された南海トラフ巨大地震、首都直下地震などへの対策にも、数値をあげながらていねいに説明されました。
古屋圭司 氏 古屋圭司 氏
内閣府特命担当大臣(防災)。昭和27年11月1日生。成蹊大学経済学部卒業。大正海上火災保険(現三井住友海上火災保険)に入社。59年退社し安倍晋太郎衆議院議員(当時外務大臣)秘書、60年から養父・古屋亨の秘書を務め、平成2年総選挙に自民党公認で旧岐阜2区から出馬し初当選、現在8期目。平成24年12月26日より現職。祖父・古屋慶隆についてお年寄りから「先生は立派な議員だった」と聞かされた言葉が、政治家を目指す決定打になったと言う。
平野啓子 氏 平野啓子 氏
一般財団法人防災検定協会理事長。静岡県出身。「NHKニュースおはよう日本」のキャスターや大河ドラマの語りを務めた。早稲田大学在学中から声の表現に取り組み、名作を暗唱するプロとして今年で25周年を迎える。現在、大阪芸術大学放送学科教授、武蔵野大学非常勤講師(伝承文化研究)。さらに文学や各地の伝承などを題材に、語りを通じた防災教育やその普及・啓発にも力を入れている。
11月5日は「津波防災の日」
大臣 今日はたまたま「稲むらの火」で知られる、旧暦ですが1854年の安政津波のちょうどその日ですよ。
平野 11月5日は「津波防災の日」でもありますね。そして先ごろは内閣府からジュニア防災検定(JBK)に後援を頂き、有難うございました。
大臣 防災教育は大切ですね。160年も前に、濱口梧陵さんが身をもって示して頂いた伝承は本当に貴重です。こうした教訓を生かし伝えていくために、普段の地道な教育が大切です。学校だけでなくて、地方自治体、自治会、家庭、それから会社も努力をしていかなければなりません。
私は国土強靱化の担当大臣もしていますが、それにはソフトとハードの両面で対応していく、むしろソフトの部分が大切です。その大きな柱の一つが教育や伝承です。 また災害対策基本法(以下、災対法)を変えて、要援護者の名簿をあらかじめ関係者に開示できるようにしました。大災害が予想されている高知県の尾﨑知事は、防災対策のために情報開示が欠かせないと歓迎していました。
平野 今日では何事も「個人情報の保護」が厳しく、管理運用が難しい時代ですが、必要な情報は活用しなければなりませんね。
大臣 対談~ハードとソフトの整備で対応を 高知の黒潮町は「34.4メートルショック」で知られていますが、大西町長が前向きに取り組んでいます。マスコミは黒潮町がすべて34.4メートルの津波に襲われるような報道でしたが、実は一部の北の方の入り江の入り込んだところが34.4メートル。その他は10メートルくらいが多いのです。南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループの報告書を受けて、私が記者会見で申し上げたように、「冷静に正しく恐れる」ことが必要です。
すでに黒潮町は要支援者を含め、全員の避難カルテを作りつつある。ここの家はお年寄りが居て、普段は2階に寝ているとか。避難のときは近所の健常者の誰と誰とが担当して、津波が来るまで何分なら避難タワーに行くとか、高台に連れて行くとか、具体的です。
平野 本来なら家庭内や、地域で把握しておくことを、町が直接把握しているのですね。
大臣 町が行動計画を作り、避難放棄者をゼロにする努力をしているのです。体が不自由で高齢だからと避難をあきらめてしまう方がいる。それをあきらめさせないことです。
平野 とても大切なことですね。
「まず逃げる」行動が、自治体の温度差を埋める
大臣 高知県は津波で大変な状況になる危険性はありますが、県知事から住民まで危機意識と防災意識は極めて高いです。
平野 防災の意識が高められると、どのような効果が期待できますか。
大臣 昨年の最終報告書で巨大津波が来ると想定されましたが、高知県はそれを冷静に正しく恐れて準備しています。準備すればほとんどの人命は救えると思います。
例えば阪神淡路大震災。亡くなった方の96%が地震と火事なのです。関東大震災では87%が火災でした。東日本大震災では92%が津波で亡くなっている。
だから津波に関する危機管理をしっかり行い、伝承すること、教育が大切です。ソフト面の取組で、かなり犠牲は少なくすることができると思います。
それぞれの地域にそれぞれの災害の特性があります。例えば私の出身・岐阜県は、全国八つある海無し県の一つですから津波はありません。でも地震と土石流などの危険性はあるので、防災意識を高め早めに逃げる心構えが必要です。
平野 やはり逃げるというのはどこでも共通ですね。
大臣 まず逃げること。人命を守るというのが一番大切ですからね。
平野 逃げるという基本が最初にあって、次に、どこに逃げるかはそれぞれの地域によって考えなくてはいけない部分ですね。黒潮町のように町が号令をかけて、みんなが一丸となって行動するところ、一方そうでもないところもあると思うのですが、その辺はどのように考えますか。
大臣 全くその通りで、全国には1719市町村あるので温度差があります。災害の多いところや首長自身の意識が非常に高いところと、あまり災害がなく首長も危機意識が少ないというところ。
私は10月24日、予算委員会の合間でしたがあえて大島町の災害の件で会見しました。防災担当大臣には避難勧告・指示をする権限はなく、指示を出すのはあくまで市町村長です。だから土砂災害の警戒情報が出たら、避難勧告や指示がなくても自分で判断して是非早く避難して欲しいと訴えました。もし避難が空振りに終わったとしても、それは幸いだったと思ってくださいと。するとテレビ放送の力もあって、四国方面では27号台風が迫っていた中を積極的に避難してもらえた。四国の人的被害はゼロでした。やはりソフト、経験則、それから空振りになってもそれは幸いだったと思う避難行動が大切です。
平野 たとえ空振りになっても、それは無駄にはならないです。それ自体が次に避難するとき、ここに逃げればいい、この坂は遠回りだ、などの確認になります。

首都での災害対策は、火と水への備え
平野 これから起こる災害のためには、その地域の特性に合った取組というのが必要だと思うのですが、例えば首都ではどうお考えですか。
大臣 首都直下地震については最終報告を近くとりまとめる段階です。特に首都は色々と影響が大きいので、スーパーコンピュータ「京」を使って分析しています。
平野 驚きました、なぜそこまで。
大臣 「京」は色々な分析ができます。特に首都の場合は高層ビルが多数あるので、長周期の地震動がどうなるか、とても複雑な動きをするので「京」で分析したのです。年内には報告書等にまとめて被害の想定を出します。一方ではこういう対策を講じれば、これだけ被害を収めることができると伝えたい。
それから火を出さない対策をソフト・ハード両面でやっていく。そして総合的な対策を最終報告の中に入れようと思います。
東京で一番怖いのは密集地区の火災です。阪神淡路大震災の教訓から東京ガスがシュープリームというシステムを作りました。ガスには高圧、中圧、家庭用があります。東京都内を4000くらいのメッシュにして全部に計測計を付け、一定以上の揺れになったら高圧、中圧は自動でガスをカットオフする。ある部分のメッシュが働かなかった場合は、10分以内に全部制御できるという世界一のすごいシステムです。
家庭用にはマイコンメーターというのがあり、一定以上の揺れになったら自動的にガスが止まりますから、ガスで大規模火災が起こることは多分ないと思います。
平野 科学技術の発達は頼もしいですね。
大臣 次にはゼロメーター地帯では浸水が心配です。どう逃げるか、ハザードマップをしっかり作る必要があります。それと同時にハード面の整備です。
例えば地下鉄などの公共交通機関の出入り口は何百もあり、メトロでは相当の浸水対策をしている一方で、不安は民間ビルの対策です。地下鉄に通ずるものが都内だけで150カ所くらい。民間ビルの皆さんに対策を講じてもらう必要があります。
子どもが大人を巻き込む民間の力を活用
平野 国としては対策を講じているところなのですね。それが現場で機能するためには、常日頃から防災意識を浸透させなければなりません。やはりそこには民間の教育力が欠かせないのではないでしょうか。
大臣 昨年、災対法を改正して、第7条の住民の責務の中で、教訓伝承の努力義務が、第8条では国や地方の教訓伝承の努力義務について述べています。それから、第47条で防災教育をしっかりとやらなくてはいけないと述べられています。
だから学校、自治体、国、それぞれの立場でしっかり教育し伝えていく。伝承していくだけでなく訓練も。何度も訓練すればパニックにならないですよね。
平野 まさに、「冷静に正しく恐れながら対処をする」ですね。ジュニア防災検定(JBK)は防災意識の向上が目的なので、ペーパー試験だけでなく事前事後に課題があります。事前課題は家庭内で防災について話し合ったことをレポート提出してもらいます。例えば、家の戸棚の食器の置き方などを調べより良い工夫をしましょうなどです。
大臣 そういう身近なことに目を向ける、それだけで意識は高まります。例えば食器の置き方とか、家具が倒れないようにする工夫の仕方、これ一つでケガは防げるしスムーズな避難行動ができます。
平野 事後課題は、実際に自分の町を歩いて防災マップを作ってもらいます。
先ほどの黒潮町のように、町をあげて情報を把握するなら良いのですが、そういう自治体ばかりではありません。地域で生活する子ども達が自ら地域を歩いて調べ、身の回りの環境を知っておくことが、いざというときの行動につながると思います。
大臣 JBKは学校の試験とは全く違いますね。自分たちが自分の安全を守る、身を守る。それから家族や友達と共働して、防災意識を高めていきましょうという目的。本当にそういう意識を、子どものときから持ってもらう必要があります。
平野 内閣府主催の防災フェアでは、地元の子ども達がたくさん参加してくれたのですが、子ども達は防災って堅く考えるかと思ったらそうではなかったです。人の生き死に、思いやりの精神を持つことだとか、そのために対策を立てておくことについて非常に意識を高く持ってくれました。するとその様子を見た保護者の方も、一生懸命になってくれるのです。子どもに大人も巻き込まれていくのです。
大臣 おっしゃる通り。子ども達がそうやって防災意識を高めて自分たちで主体的に行動していくと、親御さん達もそういう方向に行きますよ。そんな無駄なことをやる必要はない、なんて言う親はいないですからね。
平野 むしろそうした子どもの姿を見て、頼もしく思ってもらえるのでは。
大臣 誇らしく思いますよ。一方で、冷静になると自分達はそこまで意識がなかったけれど、じゃあ何か行動をしなければと考えます。
家族で食事のときに子どもから、今日のJBKでこんな問題があったよと話題が出るとする。お母さんはこう思う、お父さんはこう思うと、家庭内での議論が始まります。それが広がっていけば家庭から地域まで、住民全体の防災意識がすごく高まっていくと思います。
世界に誇れる消防団とJBKが連携を
大臣 私は消防議員連盟の会長ですが、たぶん日本の消防団は世界一です。全ての市町村に消防団がある国は日本だけ。しかも江戸時代からの歴史があり、究極のボランティアです、若干の手当は出ますが。団員は災害のときだけではなく、日頃の防災活動にすごく熱心です。寒中に火の用心の警戒をしたり、災害が起きそうなら率先して避難誘導に当たります。
平野 しかもプロの技術を身に着けていて、頼もしいですね。できることなら消防団の皆さんとも連携して、このJBKが発展していけば素晴らしいと思います。
大臣 ぜひやりましょう。日本が生んだ世界に誇る消防団です。3.11では254人が殉職されました。
平野 本当に、地域のために身を挺して下さったのですね。
大臣 水門を閉めに行って、または消防自動車で避難誘導している時に、ご自身が津波にのみ込まれて。だからマイクを握ったままのご遺体もあったと聞きます。
平野 亡くなる瞬間まで責務を全うして…その方達のおかげで助かった方もいらっしゃるということですね。
今日は防災について、課題の深さ責任の大きさを如実に感じたインタビューで、本当に色々なことを教えていただきました。このJBKを一人でも多くの子どもに受けて欲しいと思っていますので、今後もご支援をよろしくお願いいたします。有難うございました。

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